大畑晋吾

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~クレムリン「赤の広場」横の百貨店グムの賑わい~
今年の2月に激変したロシアとウクライナの関係、ロシアを取り巻く国際情勢の風当たりは強くロシア全土から多くの邦人も帰国した。それまでモスクワにいた2,200人近い邦人は5月には500人近くまで減少した。
私は年初から3月中旬まで日本に一時帰国していたのだが、前半の落ち着きとは正反対になり、後半の日程は決まっていた予定をこなしつつも、予想をしていなかった状況・事案に振り回された。普段はモスクワに居を構えているのだが、現地の情報もロシア人の妻や知人から伝え聞くものと、日本での報道とで内容が異なるもの、一致するものもあり、何を考え、いつ決定すればいいのかの決断の難しさに歯がゆさを覚えた。
3月中旬にモスクワに戻った際の第一印象は、日本で報道されるよりはかなり落ち着いており、普段とはほとんど変わりがなかった。日本で危惧していたことのほとんどは取り越し苦労となり、到着してほっと安心したのを鮮明に覚えている。物価の上昇は確かに多くの商品で目にするが、毎年様々なものが値上がりするロシアでは許容範囲内であり、物によってはほとんど値段の差がないものも多い。2月後半から3月初旬には確かに一部で商品が行き届かない事があったのかもしれないが、自分が戻ってきた時にはそれまでと何も変わらない買い物ができ、今もその状況は続いている。
今年のモスクワの春も例年とは全く違う気候で、5月後半にもなるのに最低気温は1桁台、最高気温も15度に届くか届かないかという日が続いている。ロシアでは«Когда черемуха цветет, всегда холод живет» - エゾウワズミ桜(桜の一種)が咲くころは、いつも寒さに見舞われる。という言い回しがあるのだが、今年ほど寒い春は10年以上モスクワに住んでいて初めての経験である。秋の気候について有名な言い回しが《Бабье лето. 》であり、これはインドの夏を意味する。元来は農民の生活の中で、畑仕事が終わり、女性が亜麻を浸し、揉み、織るという「女性が通常行う仕事」をする時期に重なるとも言われている。この特徴はいよいよ秋も深まる時期になる直前に、ほんの数日間夏のような暑さがぶり返す気候を言う。
~季節ごとに各種名品のイベント開催~

上記のような色々な気候を通して、ロシアでは春から秋にかけて様々な名産品のイベントが開催される。5月15日まで催されていた毎年恒例の《ハチミツ市場》はその最たるものである。
ロシアの名産品やお土産はマトリョーシカ、チョコレートなどが有名であるが、実はハチミツも知る人ぞ知るものではないだろうか。ヨーロッパ諸国ではロシア産のハチミツは良い値段で扱われ、品質も味も好評である。毎年モスクワでは春から夏にかけて1か月半ほど『ハチミツ市場』が開かれ、多くの地方から養蜂業者が集まり、自慢のハチミツを買うことができる。会場のコローメンスカヤは大きな公園になっており、中世期の建造物や教会も保存されており、散策路としても市民に愛されている。私がハチミツを購入しに行った時も、老若男女問わず多くの市民がようやく春めいた気候を楽しんでおり、散策路脇に華麗に咲いたチューリップを始めとした花に囲まれ写真撮影などに勤しんでいる多くの人の姿があった。
多くの日本人がロシアやロシア人に対して偏見を持っているが、ロシア人と関わったことがある人ならば、本当は彼らがいかに人懐っこく温かな心を持っている人間なのか知っているはずである、雪の季節が約半年ある分、季節の移り変わりは早いが彼らが心から時間を謳歌している姿も垣間見える。
ハチミツを販売していた、養蜂業者の夫婦は製品を丁寧に詳しく説明してくれ、何種類ものハチミツを試食させてくれた。彼らは誇らしげに、ハチミツを毎日のように食べているからここ数年間病気になったことはなく、コロナにもかからなかったとハチミツが与える健康効果を語ってくれた。ロシアにはロシアン・ティーとして、紅茶を飲みながらジャムを舐めるのだが、ジャムの代わりにハチミツでもいい。また、ドライフルーツやクルミなどのナッツと一緒にハチミツを舐める、また最近急激に種類が増え、品質も向上した各種のチーズと一緒に様々なハチミツを一緒に食し、自分好みの組み合わせを何種類か見つける楽しさがあることも教えてくれた。

ハチミツ販売の仲良し夫婦
養蜂業者の夫婦、夫婦ともに健康に仕事ができるのは良質のハチミツのお陰だと語
っている。
和平を待ち受ける毎日
どれだけ世界情勢や国家間の関係が変化しても、決して変わらぬもの、守っていくべきものは、一般人の平和的な生活である。個別の国籍や人種関係なく、人間が生きていく上での生存権、また世界規模での平和とはなにかを根本的に考え、定めていな
ければ、同じ悲劇は何度もいかなる形であれ繰り返される。
今年は21世紀のこれからの世界各国の平和保持、国家の防衛など多くの課題が浮き彫りになり、突き出された格好となった。数多くある国際機関の存在意義、またEU諸国や周辺国を取り巻く雰囲気も東アジアを取り巻く情勢も落ち着いているとは決して言えない。ロシアとウクライナの状況鎮静化もいつかは訪れるだろうが、そのいつかが一日も早く訪れるのを願う。
(モスクワにて)
(執筆者・大畑慎吾略歴)
札幌大学・大院卒。大学院在籍時に2009年から3年間、ロシア政府奨学金生としてモスクワの国立人文大学に留学。卒業後は商社勤務を経てモスクワで独立。日本語教師、医療通訳などを経験し、現在は現地にて日本食関連の仕事、日本企業の進出アドバイザーとしての依頼業務にも携わる。「ごはんソムリエ」の資格も習得。ロシア人女性と結婚し、2児の父。ロシア在住13年。